大正製薬が新製品として売り出した育毛剤「リアップ」が、大変話題になった。 平成十年五月二十日付け日本経済新聞の記事によると、「大正製薬が施した臨床実験では、六ヶ月使うと全体のし72.2%に脱毛が減るなどの効果があり、7.3%は毛髪が生えるなど顕著な改善がみられたという。
ただ、効果があるのは壮年性脱毛症のみ。円形脱毛症などは対象外で、女性や二十歳以下の男性も国内でのデーターはない―」とある。
この記事に、脱毛症で悩んでいる壮年者が興味を示した。
日本経済新聞の記事を推論すると、発毛・育毛は至難なことで、しかも多くの化粧品メーカーが出している育毛剤には効き目がなく、製薬会社の新製品だから今度こそ「本物」の育毛剤が出たという期待感をいだかせた。
膨大な宣伝費を使い、売らんかなの姿勢で新製品を次からつぎと発表する大手化粧品メーカーの育毛剤に育毛効果が期待できないのは事実であるが、発毛・育毛のメカニズムを研究する者にすれば、「女性や20歳以下の男性はもとより、円形脱毛症も対象外で、効果があるのは壮年性脱毛症のみ」という発表には頷けない。
なぜなら、発毛・育毛のメカニズムは男も女も同じであり、また年齢によって変わるものでもないからである。
リアップは有効成分として血管拡張剤が配合されており、説明書によれば、心臓や腎臓、血圧、むくみなどに影響をおよぼす可能性があり、頭痛、体重増加などの副作用が表われる可能性があるという。しかも六十五歳以上の男性は国内での使用経験がないので、使用前に医師または薬剤師に相談する必要があるとうたっている。
発売されておよそ五ヵ月後の十一月十日、NHKニュースをはじめ新聞各誌が厚生省通達として「リアップ」の副作用を一斉に報じ、消費者に注意を促した。当然だと思う。
市場にはさまざまなヘアケア製品があふれ、大半が絶大な育毛効果をうたっている。
その育毛剤を市場に出しているメーカーの社員が公然と「あんなので毛が生えるわけはない。本当に毛が生える薬があったらノーベル賞物だよ」と放言してはばからない。
なるほど、いかにも「あんなので毛が生えるわけはない」。
メーカー社員の放言ではないが、これらの育毛剤について言えば、髪と頭皮の仕組みを全く無視したうえで、販売促進のみを優先して製造する代物がほとんどだからである。多くのメーカーが市場に出している「スキッと爽快な育毛剤」などはその代表的な事例といえる。
少し前までは「脱毛症はホルモンの関係」と消費者が信じ込んでいるのを利用し、育毛剤の中に安易にホルモン剤を配合したメーカーもあった。 ある種のホルモンが人為的に体内に入り込むと、本来固体が持っているホルモンとのバランスが崩れ、さまざまな障害を引き起こす。ホルモン剤による副作用である。このメーカーの社員は副作用の懸念に対して、「大丈夫ですよ。たいした育毛効果があるわけじやないから副作用が表われるまで使い続ける人なんていませんよ。それに副作用の徴候が表われる前にまた別の商品を出しますから」と、平然と言ってのけた。
この発言からは、消費者への配慮など微塵も感じられない。メーカーはホルモン剤の副作用によって、消費者が被るであろうさまざまな弊害に
ついて十分に承知していながら、「売れる」し、「消費者は浮気者だから」という理由のもとに副作用の可能性を注意書にしたためただけで、育毛剤にホルモン剤を配合して売り出したのである。
また一方、消費者の間に「育毛=漢方」の神話が浸透しているのを利用して、育毛剤の中に漢方薬を配合して売り出すメーカーも多い。育毛剤の中に漢方生薬を配合するのも間違いではないが、メーカーのなかには、育毛剤の中に配合する漢方成分を、育毛の効果を基準にしてぶのではなく、漢方を強調する匂いによって選んでいる傾向が多分にある。
「スキッと爽快な育毛剤」も「漢方薬入りを強調する育毛剤」も、単に効果があるような錯覚を抱かせる演出でしかないし、そんな育毛剤が効果を発揮するはずもない。
そんな育毛剤を市場に出しているのだから、社員の間から「あんなので毛が生えるわけはない」と、自嘲的な発言も飛び出すわけである。
しかし毛髪の発毛・育毛は、「全く髪に関係ない場所に毛を生やすのではなく、生来髪の毛があったところに髪を再生させるだけでよい」のだから、さほど難しいものではない。メーカーが発想を「発毛・育毛など出来るわけはないので、消費者に効果があるように錯覚させる商品をつくる」から「生来髪の毛があったところに髪を再生させるだけでよいのだから、確実に効果のある商品をつくる」へ変換すれば、髪に悩みをもつ人たちの救世主になるような商品は簡単につくれる。発毛・育毛は容易なのである。